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東京高等裁判所 昭和42年(う)313号 判決 1967年7月26日

主文

原判決を破棄する。

被告人を禁錮四月に処する。

原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

控訴趣意第二点について

所論は、原判決が原判示二の事実につき、被告人にいかなる注意義務があり、いかなる義務違反があつたかを判示していない即ち、原判決が、「酩酊して車両を運転してはならないのに」と判示しているのは道路交通法違反の問題であつて注意義務の問題ではない。また被告人が「酔いのため適切な運転ができなくなり」とか、「そのまま右側進行をつづけ」という原判示は具体性を欠いており、事故発生と被告人の運転行為といかなる因果関係があるのか明らかでないから、結局原判決には理由不備の違法があるという主張である。

よつて按ずるに、原判決が認定判示する犯罪事実二の事実は、

「酩酊して車両を運転してはならないのに右日時場所を自動車を運転して同市中央十字路方面から同市網戸方面に向つて時速三〇粁位で進行し、酔いのため適切な運転ができなくなり前方左側に停車中の自動車を認め、これを右に避けて道路右寄に進出したが、そのまま右側進行をつづけ折柄平塚謙吉が自動二輪車に乗つて道路右側を対向して進行してくるも、左側に避けることができず、自車を右二輪車に衝突させ」(以下省略)

というのであるが、被告人を業務上過失傷害罪に問擬するためには被告人において業務上の注意義務の存在及び右注意義務を懈怠した事実があることを要し、且つこれを判文上明確にすべきものであるところ、原判決は右判示二の事実について、前記のとおり業務上の注意義務の存在及びその懈怠につき、これを明確に判示したものといえないから、原判決には業務上過失傷害罪の罪となるべき事実の判示としては不備があり、結局その理由を付さない違法があるものというべく、論旨はこの点において理由があるから爾余の論点につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免なない。

よつて、刑事訴訟法第三九七条、第三七八条第四号により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い更に本件につき判決する。

(罪となるべき事実)

被告人につき、原判決の判示一の事実を引用し、判示二の事実については次ぎのとおり認定する。

「二、右日時及び場所において、右自動車を運転し、時速約三〇キロメートルで同市中央十字路方面から同市網戸方面に向け進行中、酒酔いのため前方注視が困難となり正常な運転ができない状態になつたのであるから、自動車運転者として直ちに運転を中止し事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、そのまま運転を継続し道路右側を進行した過失により、折柄道路の(被告人より見て)右側を対向進行して来た平塚謙吉(昭和一〇年二月三日生)の運転する自動二輪車の前部に自車の右前部を衝突せしめ、因つて同人に対し全治六月以上を要する左大腿骨開放性骨折、右下腿骨骨折等の傷害を負わしめたものである。」

(証拠の標目)<省略>

(法律の適用)

法律に照らすと、被告人の判示一の所為は道路交通法第六五条、第一一七条の二第一号、同法施行令第二六条の二、判示二の所為は刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号にそれぞれ該当するところ、判示一の罪につき所定刑中懲役刑を、判示二の罪につき所定刑中禁錮刑を各選択し、以上の各罪は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文、第一〇条により重い判示二の罪の刑に同法第四七条但書の制限に従い法定の加重をした刑期範囲内で被告人を禁錮四月に処し、原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により被告人に全部負担せしめることとして、主文のとおり判決する。(飯田一郎 吉川由己夫 酒井雄介)

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